最近の16番汎用動力システムは・・・
鉄道模型からしばらく遠ざかっていた方から、20年ぶりくらいに再開しようと思って引っ張り出してみたら、インサイドギアシステムの部品が一部欠品していた。部品はないだろうか?とか、縦型モーターが完全に死んでいるので新品に取り換えたいのだが、といったご要望が割と良く出て来ます。
その答えですが、20年前に真鍮製品を出していたメーカー、例えば「走行」がウリのカツミやエンドウも、縦型モーター+インサイドギア方式のパーツは数年前に製造中止になって、問屋はもとより、現在はメーカーにも在庫がありません。でも、絶望する必要はありません。いくらでも再生できるのです。例えば、当雑談室の「小田急デニ1300」では、インサイドギヤを基準にしたと思われる、大穴の開いた床板をMP用に改修した事例をご紹介しています。パワートラック全盛期には、このような設計のものも結構ありましたが。
最近の動力方式、電車関係では「MPギア」という名前をよく耳にされると思いますが、それはこういうものです。
インサイドギア全盛期に、実車も全盛期だった103系です。カツミ製のキットを組んだ、初期型としては最新設計のものですから、かつては車体と一体でプレス表現だったドアや側面のルーバーなども別パーツになっています。かつては「国籍不明」のようなアバウトなプラ一体成型だった床下機器も個別のホワイトメタルパーツになっています。
動力システムはこのような形です。モーターを床下中央に置いて、前後の台車をユニバーサルジョイントを介して駆動します。分かりやすく言えば、最近の16番プラ完成品や、Nゲージと同じ考え方です。でも、それらの完成品と違って、ウエイト兼用一体のダイキャストケースに収まっていないので、あまりスマートに見えませんね。でも、実はそこがこのシステムのポイントです。
モーター、ギアボックス、ジョイント、ウエイトといった各パーツが様々な車種に対応できるように、複数種類ずつ用意されていて、それらを自由に組み合わせてあらゆる車種に使用できるのです。
電車用のMPギアの一例です。
裏の蓋を開けると、中はこんな構造です。竹輪切ではないギヤ、連動軸も含めて軸受部にオイルレスメタルが入っているなど、かなり贅沢な造りです。ギアボックス本体はダイキャスト製です。こういう構造なので、インサイドギアと比べて圧倒的に有利な点がいくつかあります。
先ほどのクモハ103の台車です。103系の電動車は、加速性能を上げるためにモーターを大きくした関係で、当時の他の新性能電車の標準、車輪径φ860、軸距離2100mmではなく、φ910、2300mmになりました。模型で行くと、φ10.5・軸距離26mmに対して、φ11.5・28.5mmになります。インサイドギアでは、ギアフレーム本体が、厚めの真鍮プレス加工品でしたから、そうした微妙な数値差には対応できませんでした。プレスの型代がものすごく高いものですから。従って、電車用のインサイドギアでは、新性能は26mm、旧性能は31mmにまとめられていたところが多かったようです。当時は、そのくらいのことでブウブウ言われることもありませんでしたし、完成品の台車も似たような形状の片押しブレーキ、気動車用のDT22で間に合わせてあったりしましたから。ブレーキシリンダーがどうの、なんて先ず突っ込まれなかったおおらかな時代です。
一つ上の写真でも分かるように、MPギアではギアの打ち込み位置を変えることで、軸距離の設定は自由に出来ますから、製品でも様々なものがラインナップされています。それでもまだ間に合わない特殊な寸法の場合には、ギアボックス間を焼き鳥の串状に結んでいるシャフトを切断して、内径2mmのパイプで連結することで延長・短縮が出来ます。
今一つのメリットは、動力車にも内装が取り付けられることでしょうか。
機関車用にも「MPギヤ」は存在します。
機関車ですから、床上にモーターを置く構造です。モーターが機械室に収まるので、大きめのモーターが使えます。
インサイドギアが衰退し始めた頃に出て来たのが「パワートラック」です。
台車の中にモーターと駆動システムが収まるので、登場当時は画期的なシステムだったのですが。
中はこんな構造です。Nゲージレベルのモーターに、Nゲージレベルのギア、フレームもヤワなプラ製です。これで真鍮製の電車を走らせようというのですから無理があります。2軸が固定されるので線路の凹凸に弱いとか、プラスチック製のカバーの強度、モーターの耐久性など、様々な問題があります。走りのバラツキも大きいですし。
管理人が懲りたのは、このパワートラック4台を装備した小田急ロマンスカーSSEを修善寺の旅館花月園に持ち込んだ時です。出発して30分も経たないうちにすべての車輪のギヤがすっぽ抜けて走行不能になったのです!
結局これは床板を新製してMPギヤに取り換えました。それによって、このロマンスカーはようやくきちんと走ってくれるようになりました。そして、MPギヤというものは、連接車でも使えるということです。
隣にいるデニ1300は、軸距離28.5に対して27.5で車輪径がφ11.5、MPギヤの設定がないものでしたから、これは焼き鳥の串を切断して調整しました。
パワートラックは、現在供給も不安定で、ある問屋さんに聞いたところ、「以前は定番品として常備していたけれど、あまりにも不安定なので常備品から外した」とのことでした。なので、どうしてもこれを使わないと走れない私鉄の凸型電機などを除けば、パワートラックはお勧め出来ません。
16番でもプラ製品で使用されている動力システムは、それ専用というものばかりで殆どブラックボックス状態、部品の分売も殆どありませんし、メーカーを跨いでの互換性も殆どありません。昔のインサイドギヤは、メーカーを跨いでの互換性という点では秀逸だったと思いますが、現代でそれを実現出来ているのは、エンドウのMPギヤ、あるいはカツミのエースギヤシステムということになると思います。
先ほどのED71、もう製作してから15年ほど経ちますし、2、3時間連続で走行させることも多いのですが、動力系に関してはほぼトラブルを起こしておらず、今日も快調に走ってくれます。
分かりにくいとは思いますが、最近のブラスモデル向けの汎用動力はこんな感じです。
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